敵を信じ使命を疑え


隣には君が居たか。シュンが寝ている。彼とは特にコレと言ったハプニングがあったわけではない。下の名前が一緒なのでお互い「シュン」と呼び合い会話をしていると周りの友人達が不思議そうな顔をする。自分の名前を呼ぶシチュエーションはおもしろい。優しく呼んでみたり、強く呼んでみたり名前を呼ぶことの意識が強くなる。他人の名前を呼ぶこと以上に自意識が高くなる。まるでもう一人の自分がいるみたい。自分で自分を傷つけたがる人がいないように、どうしても彼には特別な何かを感じ心のどこかで特別な扱いをしてしまう。兄弟のような双子のような親戚のような。けれど彼は沖縄出身だし、年齢も四五離れている。共通点と言えば煙草と大酒飲みくらいだろう。名前が同じだけでこれほどにも親近感がわくのはすごいことだと思う。(ただし頼ってはいけない)


けれど彼との初めての出会いはあまりよくない物であった。よく飲みにいくゴールデン街アスタリスクであったのが初めてだ。その夜は同居人が店番だったためアスタリスクへ軽く飲みに行くことにした。行ってみると彼がすでにお酒をひっかけておりいい気分になっていた。「こちらシュン君です」と同居人から紹介された。「同じ名前ですね」なんて言った気がする。大抵初めて会う人の印象がよくない僕にとって彼も同様、いやそれ以上に最悪だった気がする。嘘か本当か分からないような大きな笑い声で「嘘っぽい」というような印象があった。見栄張りなのか、お酒を振舞ったりなんのアピールなのか右手には絶えずグラスが握ってあった。


アスタリスクを後に他のバーへ飲みに行くことにした。五番街のButiという山口のお酒を扱うお店。ママのチエミさんがこれまた美人である。綺麗なアッシュ色の胸下まである長い髪にほっそりとした細い腕にはいつも謎のブレスレットをつけている。去年の冬彼女とは前野健太の「友達じゃがまんできない」や渡辺真知子の「たかが恋」なんかを聞いていた気がする。世代を超えた恋話は何よりも距離を縮めてくれる。それにお酒。彼女は僕にとってのゴールデン街の 母さんのような姉さんのような存在でもある。Butiは僕の恋愛倉庫とでも言えようか。恋の話は全てこの店に置いてきている。店にとっては迷惑な話である。その夜も今きになる人の話をしたような気がする。


何杯か飲んでアスタリスクへ戻ることにした。チエミさんはいつも「シュ〜ンもう行っちゃうの?」と言ってくれるから嬉しい。なんだかまだ行かないでくれと言われているようだ。


お店に戻る途中の路地裏でうずくまっている人がいた。お酒を飲む町、沢山のんで気持ち悪くなってしまう人がいるんなて日常のこの町で酔っ払いを気にとめる人なんてあまりいない。足早に酔っ払いを横目にした時である。そこにうずくまる背中の向こう側には見覚えのある顔。それはあのシュンであったのだ!


その時僕は『勝った!』と何も争いをしていない彼に対してそう思ってしまった。なにも勝ち負けではない何かに勝敗を求めてしまうの何故だろう。だが確かにその時の高揚感よ優越感があった。だが別に鬼ではないので「大丈夫か」と声をかけた。気持ちわるそうに嗚咽する彼の背中をさすってやった。お店からグラス一杯分のお水をもらって路地裏まで戻って渡してやった。けれど彼は介抱無用と言わんばかりの態度であった。人に弱みを見せるのが苦手な人間なのだろうと考えてしまった。それが彼との最初の出会いであった。その後飲みの約束を断れらこともあった。「憎き分身」と勝手に彼を嫌煙していた。最初の印象がよくない人ほどのちに仲良くなれると言うジンクスが僕の中にある。だが印象だけではなくて本当にその最初の出会いの時点で「好きじゃない」という第一印象にならなければならない。

そうしてなんの意味もないゼロから始まる友人関係が築いていける。仲のいい友人たちはほぼ全員第一印象が悪かったと言っても過言ではないかもしれない。

相手との関係性を築くのが難しいと感じる近頃。何処かでとまってしまうし。手を握ることができない。互いの利害のもとでしか成り立つことができないものなのだとしたら少し悲しい。

自分が好きな人が少しずつ離れていってしまっているように感じる。実際そんなことはないし実際そんなもんなのかもしれない。互いに求めている深度の違いもあるだろう。その手を強く握りたいと思うことはプラトニックすぎるだろうか。結局相手のエゴに身を寄せることが相手の心をあたたかくすることならば僕らの使命はいったいどうなるのだろうか。


君をつれていくと約束したあの海はいつのまにか町の喫茶店になってしまったのではないのかとその使命を疑ってしまう。